妄想日記

アパートのすぐ真横。あるいて20m先に、太った黒人女性(髪はアフロみたい)が座りながらゲスな新聞を読んでいる、小汚い雑な陳列がされた小さな個人売店がある。

ミルクと、プレーンのベーグルを4つ。それからレーズンバターと缶に入ったポタージュ2つ。ああコーンフレークも無いと死んじゃう。

ここの店員、すごくぶっきらぼうだけどあたしは好き。だってあたしを子供と間違えてキャンディーを入れてくれるの。ほんとはやさしいんだあ。

アパートの部屋は一階がキッチンとダイニングで、2階にお風呂とトイレと寝室がある。ちょっと横幅が狭いこの間取りだけどあたしは気に入ってる。ケンと住んでんの。かーあいい男の子よ。歳はあたしより3つ上だけどね。

男と住んでるって話すと(いや、正確には聞かれたから答えただけ)、みんな驚くのよ。「付き合ってるの?」「内縁の夫?」って。だからあたしはいつも「男の女が同じ屋根の下で暮らしちゃいけないわけ?あんたたちだってパパと一緒に寝たりお風呂に入ったりしてたでしょ」とこたえるわけよ。ケンはパパじゃないからキスくらいするけど。

彼はあたしが外で誰とどこでナニしてんのかは知らないし、彼もそれは同じ。外ではあたしたち他人同士だから。

でもそんな生活もいつまで続くのかはわからない。こないだ、赤ちゃん連れて歩いてる夫婦見て、つい「イイナァ」なんて口からこぼしちゃった。あれには自分でも驚いた。まさか、いや、そんな、でも、…‥まさかね。

大人になるってこーゆーことなのでしょうか?神様、教えてください。

この生活を愛していたのに……………

 

 

ケンはマリエにプロポーズするためにどうするべきか(どう動くべきか)を友人たちに相談していた。共同生活が始まって4年目が経った頃である。

「そりゃ、わかっちゃいるさ。わかっちゃいるけど、彼女がずっとあのままで生きていくなんてあまりにも不幸だ。」

現実逃避以外のセックスやアルコールを知らない彼女を僕はもうこれ以上見ていられなかった。でも彼女は愛を拒む。だから僕は愛していないふりを続けてきた。キスをしても舌を入れることは絶対に(しなかった)。

花束や指輪やドレスが全てだとは思わないけれど、この生活が愛であった、愛であることを受け入れてほしい。僕は勝手なんだろうか?でも、だって、愛していない男のために、女がキスをしたり髪を乾かしたり、パンケーキを焼いてくれたり靴を磨いたりしてくれるのだろうか?

愛してもいない男の靴を…

 

3日後

 

仕事からケンが帰宅した。

右腕には花束をかかえて、左手にはドレスと指輪の入った紙袋をぶらさげている。

二階の浴室からはシャワーの音が響いていた。もう21時か。

「マリエ!いいものがあるんだよ!降りてきてご覧!」

「マリエ?聞こえないのか?今からそっちに行くよ!」

 

浴室には出しっぱなしにされたシャワー。

洗濯物の上には小さなメモ用紙が置かれていた。

「愛しい人よさようなら ごめんなさい」


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