イオンしか行くとこがない

何もないところに憎しみは生まれない。そう思っていた。
しかしここには何もないと言い切れもしない。
じゃあ何があると言うのだろう。
「AEON」だ。「AEON」があった。

ここ(実家)に戻ってきてしばらくは、「地方も悪くない。AEONも悪くない。」と思い、そこそこ満足して幸せに暮らしていた。
3年が経ち、何一つ変わらぬ暮らしはやがて退屈へと化していった。
人間の環境に対する適応能力はずば抜けて高い。高すぎてそれが弊害となってしまうくらいだ。
毎週毎週イオンへ行く。親子でイオン。1人でもイオン。
「明日は休みだね。どこへ行こう?」
「イオンしか(行く場所が)無いに決まってるじゃない」
私たちはイオンで買い物をするために働いているのだろうか。生きることとは、イオンに忠誠を誓うことなのだろうか?

「はい!我々地方市民は、イオンのために働き、イオンに尽くし、イオンで物を買い、イオンで学び、イオンで遊び、イオンで出会い、イオンで結婚し、イオンで子を育て、イオンで死を迎えます!!!ジーク・イオン!!!!!」


ここは北朝鮮か?もしかしたら時間が巻き戻っているのかもしれない。

そういえば、世界トップのブラック企業だとうたわれるアメリカのウォルマートは、アメリカの寂れ果てた土地を次々と支配していっているらしい。
ウォルマートはどうしたって物が安い。爆発的に安い価格で物が売られる。とても競争に勝てない小さな個人書店は店をたたむのだが、ウォルマートの優れているところは、だからといって悪意を感じさせるほどの値上げをしないというところにある。

ウォルマートの店1軒につき、100軒の家族経営の店が倒産していると言われている。つまり、なんと25万軒もの個人商店の店主が、「もし災難が降りかかってきても、うちにはお金がないんだよ」と涙ながらに子供達に言い聞かせているのだ。

ウォルマートがアメリカをそして世界を破壊する

ウォルマートがアメリカをそして世界を破壊する

なんと恐ろしい話だろうか。
ウォルマートができることで他の店が潰れる。ということは店を経営していた人と、そこで雇われていた人は職を失う。しかし職を探そうにも店はどこも潰れてしまっている。結局ウォルマートで働くしかなくなる……ああ、なんて恐ろしい話なんだ。


そんな私もイオンしか行くところがない。
静岡という土地は、横浜県と名古屋県に挟まれている。ついでに南には山梨県。この3つは比較的観光でも賑わいを見せているし、食文化も優れているし、商売っ気も(静岡よりは)ある。

しかし静岡はどうだろうか?
富士山には静岡側と山梨側と2つの顔があるのは皆さんもご存知だろう。しかし観光地として訪れる人たちはほとんどが山梨側へ向かう。静岡側は何もないのだ。
飯屋を探しても富士宮には焼きそばしかない。焼きそばか、お茶しかない。
富士宮やきそばとかいう謎の食べ物でB級グルメだとかと誇っているが、控えめにいっても努力が足りなすぎる。
だったら山梨の方が吉田うどんやほうとう、とりもつもある。しかもワインもある。
完全にこっちの方が優れている。料理のバリエーションや味のクオリティもさること、街自体に活気があるのだ。

静岡は死んでいる。工場は多くて臭いし、商店街には場末のキャバクラやスナック、アジア・南米人向けのお店が溢れている。
ついでに夜の治安は異常に悪い。夜の商店街は近づいてはいけないと教師に注意されるほどだ。(今は知らんが)

話がだいぶずれた。私はイオンしか行くところがないこの生活に相当ストレスがたまっているのだ。


単に私が神経症なだけだろうか?
質の悪い料理を出すお店が多く、しかしきちんと客はたくさん入っていることにいつも絶望する。
生焼けのパンケーキでも美味しいと言っている人がいることに酷く絶望する。
硬派で貫くと思ったら客があまりに来ないので派手派手しい「営業中」という旗を5本くらい店の前に並べだした近所の居酒屋にも絶望する。
店主が客に堂々「先月全然お客が来なくて赤字です」と言いながら、新規の客である我々には夜メニューの馬刺しは「夜のメニューなので」と言っていたのに常連には普通に出していたことにも絶望する。
ふわふわでスカスカのパンしか置いてないパン屋に絶望する。
プリン頭の主婦に絶望する。
道端に放置された犬のフンに絶望する。

結局イオンがマシなのだ。
買い物したきゃイオンへ行き、家具が欲しけりゃニトリへ行き、腹が減ってきゃさわやかへ。


だからといって東京が素晴らしいと思うわけでもないけど。
世界が静岡しかなければこの土地でも十分幸せに暮らしていけたんだろう。
でも世界は全然広いし。美味しいご飯屋はもっとあるし、品揃えのいい書店ももっとあるし、可愛い家具があるお店ももっとある。

私はわがままなんだ。自分で稼いでここを出ればいいだけの話。でもそれができない。
一人暮らしはもうしたくない。家賃のために精神を壊しながら働くのももうできない。今のこの健康状態を壊すのが怖い。

何も静岡に愛がないわけではない。どうすればもっと街が良くなるかを母と議論することもたまにある。
その時に最終的に出た結論は「イオンが商店街を買収する」だった。


あ〜あ。徒歩圏内に大きな書店(あるいは図書館)と、喫茶店と、ガストと、スーパーと、病院と、駅があったらな。
それって東京に住んでた頃にはクリアできてた条件だな。
結局東京、それもなんか悲しい。
お金もろくに稼げない自分が何もかも悪い。それに尽きる。


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