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孤独な権力者、金正日が愛したものは『映画』だった。

北朝鮮には、1985年に製作された、『プルガサリ』という特撮怪獣映画があります。それまで、この国には芸術としての映画が存在していませんでした。チュチェ思想に基づいた社会主義体制をとっているこの国では、映画はこの思想を国民たちに植え付けるための道具に過ぎませんでした。それなのに何故、今やカルト映画としても知られるほど知名度を上げたこの映画を残すことができたのか?私はますます気になり、調べました。

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実は金正日氏は、あのアドルフ・ヒトラー氏と同じく、芸術を心から愛する者の1人でした。彼は『建築芸術論』と『演劇芸術について』、そして『映画芸術論』について執筆していました。*1中でも、『映画芸術論』は日本でも翻訳されて書籍化されており、オークションでは高価格で取引されているほどです。トップ2だった頃、彼は政治に興味が無く、映画を作る仕事をしたかったのだそうです。
そんな芸術家である彼だったため、プロパガンダ映画しか無いこの国に、世界的に興行で成功を収めるような芸術映画を撮りたいと、強く願ったのです。彼は一部からは映画マニアであることで有名なくらいに、映画をよく観ていました。中でも、彼が映画監督として尊敬していたのが、あの『ゴジラ』シリーズをつとめた中野昭慶監督(以下,中野氏)、そして韓国の申相玉氏(以下,申氏)の2人でした。(他にももちろんいますが、本編と関係無いため割愛。)

北朝鮮という国の政治がめちゃくちゃであることは言うまでもありません。金正日氏は彼らを拉致しました。そして「実は映画を作りたいから君を誘拐したんだ」*2と言ったのだそうです。欲しいものは誘拐すればいい、それがあの国では当たり前なのです。聞いている分ではとても恐ろしい話です。通常、拉致計画というのはとても綿密に立てられるようで、本当に神隠しにあったかのように、そこにいたはずの人が消えてしまうと聞いたことがあります。

北朝鮮で拉致され生きるということは、収容所生活を余儀なく強いられるということです。ところが、申氏は早まって脱走を試みてしまったがために、5年間もずっと拷問と監禁をされてしまいます。そして、金正日氏は「僕のために映画を作ってくれれば、いつでも出してあげるし、好きな映画を好きなように。いくらでも使っていいよ。」と言いました。*3いじわるにも聞こえますが、彼はただ純粋にそばにいてほしかったのです。友達がいない孤独な権力者だからこそ、拉致をして国に閉じ込めるしか、むしろ術を知らなかったのでしょう。そのかわり、自由にお金や土地や人材を、「あれが必要だこれをやりたい」と言われればすべて許可しました。撮り放題、やり放題…それは映画監督にとってはパラダイスも同然です。亡命を試みるまで、金正日氏は彼らに映画を撮らせつづけました。そして、『プルガサリ』は、見事大傑作として名を残しました。

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恐ろしいと同時に、映画好きにとってまた魅力的でもある話です。


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この映画との出会いは、今から10年以上前。日本で公開されたのが確か、1998年だから、多分2000年くらいにはTSUTAYAにも並んでいたと思う。
今でも覚えている。TSUTAYAの目立つ場所に、この映画のビデオが「北朝鮮の怪獣特撮映画!!」という風に紹介されていたのを。
そして、面白がって母と一緒に借りた。
それから大人になって、ついこないだ久しぶりに観るまで、この映画の存在を忘れることなんて多分無かったと思う。
母と家にいるときは、なんやかんや「プルガサリって映画あったよね~」なんてよく話題にしていた。
この映画のせいで覚えた朝鮮語?がある。「アノケタ」。意味は、「いらない」。
独房みたいなところで、飯を与えられるものの、いらねえ!って何度もアノケタアノケタ言うシーンがあるんだ。それがずーっと頭から離れない。本当、人間ってどうでもいいことばかり記憶している。

でも、この映画の裏話のことを知るのはここ数年になってからだった。そして、先日たまむすびで『将軍様、あなたのために映画を撮ります』の紹介でたくさん面白い話を聞いて、金正日という人物に激しく興味を抱くようになった。
映画芸術論』という本はもう中古しか出ていないけど、状態が良くないものなら比較的かなり安く手に入るっぽいのでさっそく注文した。

今、日本人の間でも北朝鮮への旅行が流行ってる…とまではいかないけど、旅行客は増えてきているらしい。もちろん団体ツアーのみだが、すごい時代になったものである。
しかし、確かにもの好きにとっては興味深いし魅力的なところもある。
拉致された映画関係者たちも、決して悪い話ではなかったのだ。むしろ、映画をつくるうえでは最高の条件が揃っていた。それは言うまでもない。

北朝鮮という国のことについて口で説明できるくらいに理解している人なんてなかなかいないと思う。
私もそうだ。それでも、この『プルガサリ』との出会いのお陰で私はこれだけの知識を得ることはできた。
日本人としてもこの国のことについてはよく知っておく必要があるので、個人的にこうして読みやすい記事を書けたらな~と考えている。

ちなみに、今の金正恩氏はまたタイプが違うっぽいですね。こっちに関しては何者かさっぱりわからん。そこらへんも資料があったらいいなー。


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